【山本雅則さん】先代から引き継いだ窯で焼き上げる、新しい信楽焼|つくり手インタビュー
どこかほっとするようなやさしい風合いながらもしっかりと存在感のある鎬のうつわが大人気の山本雅則さん。
こんなにすてきな器たちが、どんな背景と思いで作られているのか気になり、信楽町にある工房を尋ねました。
>> 山本雅則さんの作品はこちらからご覧いただけます。
小さい頃からずっと身近にあった陶芸
— 生い立ちやものづくり、作陶を始めたきっかけなどから伺いたいと思います。外に登り窯などが見えたのですが、山本さんは先代から窯元さんなのですか?
そうですね。
祖父が登り窯、薪窯でやって、ちょっと前にやってた連ドラのスカーレットみたいな感じの作品をやってたんですけど、親父はガス窯で信楽っぽい色をだす食器類をやり始めて。
で、まあ僕はそれみて育ってたので、ちっちゃい頃から土いじりとかして遊んでて「焼いてー!」言うてコップとか作ってました。
— 小さい頃から当たり前のように陶芸に触れて育ったのですね。
それから途中で親父が「売れへんし辞めるわ。」言うて、一旦休業ゆうか。
そういうのがあって、僕が大学出てこっち帰ってきてから、まあ家の設備はそのままなんで、ちょっと自分でやってみようかなっていうところから今ですね。
だから僕はもう全然今までの家の感じは全く出さずにやってます。
— では家業を継いだというよりも、窯などを受け継いで全く新しく始めたということですね。
そうですね。窯はガス窯がまだ使えるんで、それを使ってます。
— なるほど。ちなみに陶芸家になろう!というのは昔から決めていたのですか?
お父さまも一旦やめられてるということは、継がないといけない環境ではなかったということですよね。
僕は高校も信楽で、そこにセラミック科とデザイン科っていうのがあって、僕はセラミック科に行きたかったんですけど、親が「セラミックなんか信楽でなんぼでもできんねんから、デザインの方いけー」言うて、結局デザイン科にいって。
で、デッサンとかを習ったのが後々大学に入るときに役に立って、で、京都の精華大学って美大の陶芸にいきました。
大学卒業後は、信楽の窯業試験場でろくろや釉薬を学ぶ
— やっぱり陶芸の道に進んだのですね。
そう、まあ大学はただ遊んでたんですけど。(笑)
大学を出て戻ってきて、窯業試験場っていうのが信楽にあるんですけど、そこで小物ろくろを勉強して。
それでろくろをちょっとひけるようになりつつ、一年経ったら試験場を出て。
お金がないし就職しなあかんっていうことで、昼はここらの地元の陶器会社勤め出しつつ、夜は他の作家さんとか工房の下請けで、コップとかお茶碗をろくろでひいて、みたいな生活をしてました。
— 昼は陶器の製造会社、夜は修行みたいな生活ですね。
修行、修行。ろくろ上手くなるには、まず沢山ひかなあかんから。
そんで2010年から丸4年、2014年まで会社にいましたね。
会社辞めてからは、もう一回窯業試験場の素地釉薬科で釉薬の勉強を1年しにいって、そんで今使ってるこういう薬は全部自分で調合して、だしてるんです。
— 釉薬から手作りのオリジナルなのですね。確かに独特ですよね。
冷却還元っていう焼き方をしてて。この釉薬、ムラが激しいんですけど。
こんな色出したいって思ってても、全然ちがくなったり。
同じような焼き方してる人と、「安定せえへんなー」言うて話してます。
— マグカップの緑の色味もすごくいいですよね。あの他にない深みのある緑、だいすきです。
当初これがなんで緑になるってわかったかっていうと、黒のお皿の上に白の薬をこうスプレーでこう雫みたいにぺぺぺぺぺってつけて焼いたらどうなるかな思って焼いたら、そこだけ緑になったったんで、これはマグカップでやってみようかな思ったら、緑がでよって。
— 化学実験のような試行錯誤を重ねた上でああいったお色が生まれているのですね。
我が家でお迎えしたそのマグカップも、購入のタイミングによって底の色が違ったりしておもしろいなと思いました。
あ、あれは粘土、白土の種類が違うんですよ。このリム皿系は赤土を使ってて、茶色とかは冷却還元っていうのがかかってないから、茶色。
赤土の色なんですよ、これが。還元がしっかりかかると、黒くなるんですね。
でもその白土でやると、白であんまり影響が出ないんで、お茶碗とか白にしたい時は、きれいに出おる。
— …やっぱり化学ですね。(むずかしい…)
そうですね、でも僕そういう化学の感じめっちゃ苦手なんですよ。
— えっ、苦手なんですか?得意なんだろうなぁと思いながら聞いていました!
数学とか化学とかめっちゃ苦手。1年勉強しに行ったけど、いまいちよくわかってないです。
今でもようわからへんから試行錯誤しながら。
鎬は手間がかかるけれど、そのぶん面白い。
— それでもう一度窯業試験場を出たあとに、今の山本さんの代名詞である鎬の器を作りはじめたということですか?
うん、2014年まで会社にいて2015年に窯業試験場をでてからだから…5年ぐらいか。
— 5年!わたしは山本さんのファンとしては新参者で…2年前くらいからかな。
その頃にはもう既に人気作家さんだったイメージがあるのですが、最初から結構上手くいったんですか?
いやいや、まだまだですよ。
2015〜6年からはずっと家でやってるんですけど、その前までも会社に勤めながら自分で作って、信楽の陶芸の森で売り出しとかやってたんで、そこ出して反応みたりして。
会社に勤めてる時は鎬はあまりやってなかったんですけど、2016年くらいからやり始ましたね。
— ちなみに、鎬!と決めたきっかけは何かあったのですか?
うーん、僕はそもそもこれが、鎬なのかどうか僕はちょっとよくわかってないんですけど…
鎬って、刀のあの部分じゃないですか。あの鬼滅の刃とかで流行ってる、刀の鎬を削るゆうとこのあの鎬のエッジ。
器のエッジ部分が、鎬っぽくなってるから鎬ゆうんやと思うんですけど。
— なるほど。
器で鎬っていうとポピュラーなやつで、カップとかでも5mm間隔とか10cm間隔で、スースーとやってくのが鎬じゃないですか。
でもああいうのはよく見てたし、そんなんやっても一緒じゃないですか。
— ありきたりなのは嫌だと思ったんですね。
そう。だからなんかちゃうのしよって思って。ウェーってやった。(笑)
— (笑) ウェーって。
そう。ウェーってやってみたら、意外としっくりきたっていう。
手間かかるけど、これ面白いなー思って。他の人もあんまりやってへんなって。そこからですね。
最近はちょっとこういう斜めっぽい鎬の人がちらほらいはるなって思ったりはしますけど。
— この一つ一つの鎬を彫るのって、かなり手間のかかる作業だと思うんですけど、そういうのは苦痛ではないですか?
なんか細かい手間かかることすんのが好きなのかもしれないですね。
大学の時はオブジェばっかりやってて、そのオブジェも手間だけかかってるようなん作ってたんですよ。
— 最初に山本さんの鎬の器を手にした時に、これ一個一個削ってるんだよな、すごいなって思いました。
そうですね。
だから焼きで失敗するとすごい悔しい。
— 確かにそうですよね。焼くまでの手間は一緒ですもんね。
そうそうそう。
うまいこと焼き上がってくれたら良かったのにみたいな。
売り出しとかで売ろうかなーって思っても、なんか気持ち悪いなーあかんなーと思って。
— アウトレット品扱いで出すとしても、ご自身で気になっちゃうんですね。
うん、そう。絶対それぞれなんかこう、許せるところと許せんところみたいなのがあるみたいで、「こんくらいいいやん」っていう人もいれば、「これはいやや」っていう人も、個人個人違いますからね。
「幸山窯っていうのも一応祖父が作った名前やし、そっと寄り添っとこっかなと。」
— ちなみに、大学卒業後に信楽以外の場所で活動をするっていう選択肢は特になかったんですか?
その選択肢はなかったかな。
京都の大学行ってたから京都でやれたらやりたいかなって一瞬思ったけど、信楽なら粘土もすぐ買えるし、窯も家にあるし、釉薬もそこらで買えるし。
— 確かに、元々生まれた場所にすべて揃っていましたもんね。
ちなみにお父さまやおじいさまは、この土地で陶芸をやることに関して何か仰っていましたか?
いや、特に。僕のことはなんも言われてないです。
勝手に僕がやってるだけですね。
— なにも言われていないのに、結果的には先代と同じような道に進んでるっておもしろいですね。
ちなみに、外に"幸山窯"と書いてあったのですが、これはおじいさまがつけた窯のお名前ですか?
祖父の名前が幸せの雄っていう字で幸雄。多分そこから取ったんでしょうね。
幸雄と山本で幸山にしたんちゃうかなとは思いますけど。
— なるほど、そういうことでしたか。
作品の裏に一応ちょっとゆるっといれてるハンコも、ちょっと他のを作りたいなとは思ってるんですけど、でも幸山窯っていうのも一応祖父が作った名前やし、そっと寄り添っておこうかなと。
伝統的な信楽焼と、全く信楽焼の要素はない細かい鎬の融合
— 山本さんの思う、信楽焼の魅力ってなにかありますか?
信楽焼の魅力っていうと、土の風合いが感じられる素朴な感じでしょうね。
僕も信楽で育ってきてるから、どこかになんかがおるとは思いますけど。
例えばこの土っぽい感じは、信楽のあれかなとかは思いますね。
— 土っぽさとか、なんとなくちょっと粗い感じですかね。
そうですね。
けど、僕のみたいなこんな細かい鎬とかそんなやってられへんから、ここには全く信楽の要素はない。
ただやっぱり信楽生まれの僕が作ってるから、なんかしらどこかに潜んでるんちゃうかなとは思います。
一番人気の鎬のリム皿の制作エピソード
— sui.ではメインで取り扱わせていただく予定の鎬のリム皿ですが、これを作ったきっかけは何かあったのですか?
初っ端始めたのが、これの一回り小さい20cmのやつです。
なんでリムにしたかというと、なんかリムってお洒落やんっていう。
なんかリムっていう響きがもうなんか…なんやろーって思って、あ、フチのことかって。
それで作りやすい感じで作ったら、ちょっと深さがあるんですよね。
逆にその深みがあるからなんか良いみたいな話になって、そこから人気が出て。
— 結構大きいので作るのも大変そうですよね。
最初作ったのが20センチくらいで、その後この24センチを作ったときは、こんだけ作りにくいんかって思いましたね。
焼いたらろくろひいたときから、15%縮むんですよ。1.15倍だから…焼く前は27.6センチか。
で、おっきくなればなるほど、ろくろで引いた時のリムの角度が水平にするとペチャンってなるんですよ。だんだんゆっくりゆっくり遠心力でヒューン、ペチャンってなる。
だから若干斜めにして、乾くときにちょっとあがる、で、焼いてる間にまた下がるみたいな調整をしてて。
— うわぁ、すごい。サイズから角度までを全て逆算しながら進めないといけないのですね。
サイズはきっちり測る道具あるけど、何ミリとかズレててもまあいいやって思ったりはしてますね。
そこの正確さは求められてへんかなって思って。
けど、2枚とかの注文の時は大体おんなじにするようにしてます。
平置きして高さがどうやろとか…高さも2〜3mm違ったりするから、2枚やったらペアで送った方がいいかなって思ってとかですね。
リムはリム部分の角度とかはすごい気遣いますね。
— すごい工程を経て作られていると知り、ますます愛着が湧いてきました!
あまりインスタには載せていないのですが、わたしもあのリム皿はすごい高頻度で使っています。
ありがとうございます。
— パスタにも使いやすいし、サラダでもスープでもカレーでも…本当に何にでも使えるし、リムがついてて鎬があってすごいお洒落なのに、安心感があるというか気を使わずに使えるので重宝しています。
ダメだよって言われちゃうかもしれないんですけど、最近引っ越した家に備え付けの食洗機があって、食洗機でもガンガン洗っています。
繊細だったり華奢な器って、やっぱり気を使ってなかなか使えなくなっていくので、気兼ねなく使える器はやっぱり登場頻度も上がりますね。
あー、食洗機は重ねすぎなければ大丈夫やね。
— そう、本当にすーっごい使ってます。
ありがとうございます。
— 実は他の作家さんので華奢だったりシミがつきやすいような繊細な器もいくつか持っているのですが、夫ひとりの時はそういう器を避けているみたいで(笑)
夫が自ら選んで使っているのは大抵山本さんの器ですね。
へぇーそれ嬉しい。
僕もパスタが好きで、けどいつも250gくらい食うんで自分の使えないですよ。
— えっ?おひとりでですか?
1人で。これに250は乗らへんですね。
— そりゃ乗らないですよね。うちは2人で250ですもん。(笑)
そうなんですよ。このリム皿とかでも、お洒落にちょこんとパスタ乗せて食うてはる人いるんですけど、ようそんなんで足りるなー思ったり。
お洒落やなーって見てるけど、絶対自分では食わへんやつやなー思って。(笑)
休日は遠征にいくほど、釣りが好き
— 今はインスタとかで使ってる方の食卓が見られるから面白いですよね。そんな使い方するんだーとか見られて。
僕としては全然ね、どんな使い方されても面白いからインスタあげてほしいなと思うんですよ。
釣り仲間の先輩でも、自分で釣ってきて僕のリム皿に刺身を乗せてくれる人もいたりして、お洒落やなー思って。
— お刺身ですか!すてきですね。なかなか自宅では食べないなぁ…。
僕も親がたまにスーパーからお刺身パック買ってくるんですけど、全然食わないんですよね。
釣ってきたのを自分で管理したほうが美味しいじゃないですか。あの、何日寝かしてとか。
— えっ自分で釣ってきたのをっていうことですか?釣りされるんですね。
結構しますね、この間奄美大島に遠征に行ってきましたね。
ロウニンアジっていう20〜30キロになるやつを狙いに行くために、奄美で釣れるから。
3年くらい毎年行ってるんですけど、3年目でこの前やっと5キロくらいの顔が見れて、子供でもよかったーって。
— すごいですね。じゃあご自身でも捌いてご自身の器に盛ってインスタに載せられますね。
僕は載せないですね。自分で撮ってみて、違うなと思って、載せんとこみたいな。
自分の器はどんな風につかってもらっても構わない
— ちなみに山本さんは作られたうつわを、どんな方にどんな風に使って欲しいみたいな理想ってありますか?
ないですね。もうどんな使い方されても、文句は言わないです。
今はあれですね、インスタとかでどういう風に使ってるか見えるからありがたいですね。昔そんなんできなかったですからね。
ちょこちょこ観察、言うたらあれですけど、見てちょっと勉強してます。
— 確かに作るのと使うのでは見えてるものが全然違いますもんね。
そうですね。
まあどんな使い方されてもいいかなって思う。
— 逆に山本さんはその、お料理とかでお皿を使うっていうのはそんなに興味はないんですか?
興味はありますね、あんまりしないですけど。やっぱり刺身くらいかな。
平たいお皿見ると、もう刺身がよぎるんですよ。
他の作家さんとか先輩の作家さんとかの平皿とかプレート見てると、刺身盛るっていうの想像してしまいますね。
刺身をこの器に盛りたい!みたいな。(笑)
— (笑)ほんとうに釣りとお刺身が大好きなんですね。
そうですね。
これからやりたいことはまだまだたくさん
— それでは最後に、今後なにか新たにやりたいことや挑戦してみたいことはありますか?
あー、色々あるな。
あの型物…石膏型でやるやつとかも、やりたいなーとは思うし。
型物って丸じゃないのもできるから、楽しいそうやなって思って。四角やら楕円やら、オーバルとかも人気ですよね。
— 確かにオーバル皿や八角形などの器もいいですね。
一応ね、そこに石膏もあって作れる準備はしてるんですけど、なかなか作れてないですね。
— 型で形を作ってから、あとから手で鎬だけ加える みたいなことも可能なのですか?
できますね。リムのオーバルとかやったら、鎬でできるし。
あとはコンポートとかもつくってみたいし。
他もいろいろ鎬でも種類増やしていきたいなってのは、ありますね。
— やっぱり山本さんといえば鎬!っていうイメージがありますよね。
固まってきちゃってるからまずいなと思いつつも、これ以外にやってもしょうもないのやったらダメじゃないですか。
それにまだ鎬のアイテムも増やしていかなあかんなっていうところなんで。
山本雅則|Masanori Yamamoto
1987年 滋賀県甲賀市信楽町生まれ
2009年 京都精華大学芸術学部 造形学科 陶芸コース卒業
2010年 信楽窯業技術試験場 小物ロクロ科修了
2010-2014年 信楽の陶器製造会社に勤務
2015年 信楽窯業技術試験場 素地釉薬科修了
自宅にて作陶を始める
編集後記
実は今回のインタビューではじめてお会いした山本さん。飾らずおっとりとした優しいお人柄でとてもお話しやすかったです。
「鎬やってるところも見たい?」などと仰りながら作陶の様子もたっぷり見せてくださり、個人的にも興奮しっぱなしでいい思い出となりました。
工房の外には、山本さん自身が山から採ってきて植えたという大文字がきれいに咲いていたり、至る所に陶器が並べられていたり。
信楽町自体も自然ゆたかでのんびりとした、すてきな町で。こんな場所だからこそ、すてきな作品がたくさん生み出されているんだなぁと妙に納得してしまいました。
また近いうちに必ず訪ねたいと思います。
( 取材・写真:norimai )
>> 山本雅則さんの作品はこちらからご覧いただけます。